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福岡高等裁判所 平成9年(ラ)42号 決定 1997年8月22日

主文

原決定を取り消す。

本件免責を許可する。

理由

一  抗告人は、主文同旨の裁判を求め、別紙「抗告理由書」に記載のとおり主張する。

二  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

1  抗告人は、高等学校卒業後の平成元年四月、福岡ダイエーホークスに入団し、平成六年一〇月に自由契約となるまで、プロ野球の選手をしていた。抗告人の父甲野太郎には、同人が電気店を経営していたころに発生した多額の債務が残っていたため、抗告人の契約金(手取り約一八〇〇万円)及び年俸(税込みで四四〇万円ないし四五〇万円)のほとんどは右返済にあてられていた。

2  抗告人は、平成八年九月一八日、債権者一六名に対して約一三六五万円の債務を負い、支払不能の状態にあるとして、破産宣告と同時に破産廃止の決定を受け、同年一〇月一七日、本件免責の申立てをした。

3  本件免責申立時における債権者は一四名、残存債務額は合計約一四三七万円であったところ、そのうち、約一〇六九万円は、抗告人が平成四年八月から平成六年四月までの間に買い替えた自動車四台及び自動車修理代の立替金債務であり、約二〇二万円は退団後に借り入れた生活費で、その余は退団前に借り入れた生活費や飲食代等である。

三  右の事実によると、抗告人が四台の自動車を買い替えたことは、必要かつ通常の消費を超えたもので、抗告人の収入等の財産状態に対し不相応な支出をしたということができ、破産法三六六条の九第一号、三七五条一号にいう「浪費」にあたるというべきである。しかし、抗告人が支払不能の状態に陥ったのは、右のような浪費があったほか、父親の債務に対する返済を強いられたことや、退団を余儀なくされたことにも起因することが認められ、一概に抗告人ばかりを非難することはできない。そして、一件記録によれば、本件免責について異議の申立てをした債権者はいないこと、抗告人はいまだ若年であって更生の見込みもあることが認められ、これらの事情を総合考慮すると、抗告人については、免責不許可事由があるにもかかわらず、なお、裁量により免責を認めるのが相当である。

四  よって、本件免責を許可しなかった原決定を取り消し、抗告人について免責を許可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 池谷 泉 裁判官 川久保政徳)

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